眩暈

2004年2月25日 小説
 
ISBN:4062630796 文庫 島田 荘司 講談社 ¥933

冒頭に置かれた手記を元に推理を組み立てていく話。この手記の内容があまりにも非現実的で突飛なので、疑うべきことは多いのだけど、手掛かりがこれ一つであるために、暗く謎多き世界にしている。その暗さが妖しさや事件の真相を一層深く感じさせている。

途中まで読んだところで謎が解けてしまったような気がするのだけど、そこから隠れていたものが次々と露出してくるのは面白い。ただわたしの中では謎が残ってしまっているのが残念。読みが足らなかったかぁ…。ここまで長くする必要もないと思うのだけど。

この「眩暈」には環境汚染などの社会問題を孕んでいる。推理小説の場合、殺人を目的とした犯罪や金品を目的とした犯罪などを除けば、登場人物の心理面が解決に至る一つの鍵を握っていると思う。そこには更に、読者への問題提議を含むものもある。その問題定義がワザとらしいものであれば呆れてしまうのだが、この「眩暈」においてはそれがない。「眩暈」の、ある登場人物が環境問題について考えることは当たり前なのだから。そこは真に迫っていると思う。





こういう手法を受け入れられるようになったのは、藤野千夜さんの『少年と少女のポルカ』を読んだからだと思う。この作品の頭に「同性愛者の特徴の一つとして、同性愛関係の書物をたくさん読んでいるということが挙げられます」という文がある。これを読んだときわたしは思わず笑ってしまった。

これは同性愛者に限ったことではないのだけれど、痛い目を見ないとその痛みはわからないように、俗に言う一般的でない人でなければ経験しづらいのだと思う。他の人と違う自分について知ろうとすることのようなものだから。簡単に言えば、障害者になって初めて障害者を取巻く環境を知ることと似ていると思う。もちろん自分自身でなくとも、家族や親しい人の不幸にも同じことは言える。人生を大きく変えるからこその、目に見える心境の変化なのだと思う。
 
 
(´・ω・`)
 

水車館の殺人

2004年2月13日 小説
ISBN:4061850997 文庫 綾辻 行人 講談社 ¥590
 
 
わたしはミステリー初心者な為か、どうもトリックに傾倒してしまう傾向があるようです。奇妙で絶妙なトリックを、納得のできる動機の上で組み立てているのが好きです。

この水車館の仕掛けは動機付けられたトリックとは無縁でしたが、上手く両者が合わさって、不確定要素を生んでいたのが面白いと思いました。
仕掛けについては真相とは違った類似の形で気付き、犯人についても一応の予想は当たってましたが、その上でさらにどんでん返しをぶっ放されて、その衝撃をモロに受けました。
 
 
「本格」という言葉の意味するトコロも、本格以外のミステリーがどのように位置づけされているのかも知りませんが、この綾辻行人氏が評価されていることは紛れもない事実であることは読み取れました。

自分の趣向と合わないもの、異端的とされるもの、既存のもので未だ目にすることのないものは、先入観と一般的な評価以外で知ることがありませんが、わたしの体験したことのないものの方が遥かに多く、それを凌駕することができない以上、食わず嫌いは出来るだけ避けようと思います。
 
 
(っ・∀・)っ

ライン

2004年2月10日 小説
ISBN:4062636336 文庫 乃南 アサ 講談社 ¥571

深夜のパソコン通信にハマる浪人生、小田切薫。
彼は“KAHORU”という名前で毎晩チャットを楽しんでいた。
しかし“KAHORU”を女性と思い込み、恋をした者が殺される。
見えないラインで繋がった人々の悲しい現実を覆い隠すのは、上っ面な文字を吐き出すパソコンの画面だった。
 
 
御丁寧にも帯の付いた画像だけど、帯に書いてあるようなミステリーとして読んだら楽しめないと思う。事件を推理することよりも、事件について現実的に考えるべきだということを投げかけている本だとわたしは思う。
 
 
インターネットという距離を越えた関係性に、現実の友情や愛情、嫉妬や欲望が絡み合う。
しかしインターネットという通信手段の向こう側には、自分と同じ生きた人間が存在する。
そのことを忘れてはならない。
 
 
ネットによる犯罪や誹謗中傷は、目の前に生きた人間が居ないことで、どこか遊びと同じ様な感覚に陥ってしまってるからなのではないかと思われる。自分が何者か明かすことのない、相手が誰であるか知ることのない、そういった匿名性の穴に落とされる危険性を孕んでいる。
 
 
わたしがこの本を読んで、ネットが怖くなったり嫌になったりはしていないけど、主人公が浪人生という立場で、将来について不安定であることから、自分の将来もまた不安定であることに不安を覚えた。先がまだ見えないのだから、良い方に転ぶか悪い方に転ぶかはまだ解らないけど、先のことを考えなければならないと再認識させられたのは辛かった。薫が“KAHORU”として現実を忘れようとしたことが良く解る。

(´・ω・`)

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